ふかろーずい

何に使うかは未定です

海とりえの旅の軌跡を辿りたい記事

 旅する海とアトリエという作品をご存知でしょうか。まんがタイムきららMAXにて連載されている、森永ミキ先生による4コマ漫画です。 

 

 自らの「海」という名前、延いては自分自身のルーツを探すためにヨーロッパにやって来た七瀬海と、彼女が旅先で出会った画家の安藤りえ。旅路を共にすることとなった2人はポルトガルから出発して欧州各地を巡り、観光地や現地の食べ物を堪能することはもちろん、様々な人との出会いや交流など、単なる旅行に留まらないヒューマンドラマが展開されていきます。思わず息を呑む緻密な各地の背景、それぞれに抱えた悩みに向き合おうとする人物像など、魅力は多岐に亘ります。未読の方はぜひ読んでみてください。ニコニコで7話まで無料で読めます。単行本は第1巻が発売されています。

seiga.nicovideo.jp

  

www.dokidokivisual.com

 この記事では、数ある魅力の中でも「旅」という側面に着目してみたいと思います。

 

 その『海リエ』ですが、作中での観光地の描き方としてロカ岬やアルハンブラ宮殿のように具体的に名前を出して紹介するパターンもあれば、背景に登場するだけのパターンもあります。東京での観光に例えるなら、浅草寺新宿御苑の紹介で話が進みつつ、会話劇の最中に上野恩賜公園を歩いていたり背景に渋谷のハチ公の銅像が描かれていたり……といった感じでしょうか。さりげない背景描写が「登場人物がそこにいる」という雰囲気を表現・増幅するのに大いに寄与していると感じます。出てくるものを作中で全て説明されたら流石に無粋だというのもありそうですが……。

 とはいえ、個人としては描かれているものが何なのか気になってしまう訳で、せっかくだし調べてみることにしました。

 

 また、森永先生へのインタビューには担当編集の方が旅の行程が現実的か/作中の移動方法が本当に可能なのかチェックしているという記述がありました。

media.comicspace.jp

 個人的に、これ凄いことだと思うんですよね。現実のヨーロッパを舞台としているのでそうすべきなのかもしれませんが、この細やかな配慮によって海やりえの旅が決してフィクションに留まることのない、より現実味を帯びたものになっていると思うんです。

 また、その移動も飛行機ばかりという訳ではなく、夜行列車やフェリー、鉄道連絡船など実に多種多様な交通機関が登場します。それが話のネタになったり、海たちが純粋に楽しんでいたりと、移動も旅の大切な一要素になっているように感じられます。

 さらに、彼女たちは4コマの外側でも数多のものを見て、様々なことを感じて、いろいろなことを話しているはずです。ロカ岬までの道のり、スペインの高速鉄道の車窓、飛行機に乗って上空から見たヨーロッパ……。海たちが見ていて読者が知らない部分は無尽蔵にあります。

 ……という訳で、この記事では、登場した多くの観光地の紹介とともに辿ったルートも考えることで、旅の輪郭を少しでも明瞭にしたいと思います。

 

はじめに

 今回は単行本1巻の範囲、即ちポルトガル→スペイン→イタリアと巡ってオーストリアのウィーン国際空港に到着する直前まで扱います。「マリアは大学の夏休み期間である」というエマの発言に基づき、この旅が夏に行われている前提で話を進めます。あと、

  • 紹介する観光地は基本全て作中に登場しますが、(マラガなど)一切作中に出てこないところについては推測が混ざっています。
  • 交通機関については夜行列車やフェリーのような作中に登場しているものを除いて全て妄想です。妄想によって記事が肥大化しています。
  • 常軌を逸した行程(?)を考えているかもしれないので、何かあれば指摘していただければ幸いです。
  • 現実が舞台とはいえフィクションなので、行程についてはあくまでも「現実で旅を再現するならこんな感じ」みたいなものだと思っていただければ。あと、現状を鑑みてもダイヤの改廃などで作中の交通手段の一部は今後失われていくかもしれません。
  • 2020年5月現在、作中に登場するすべての国が外務省の渡航中止勧告の対象となっています。気軽に渡航できる世界が戻ってきたら行こうね!!!!!!!!

 

ポルトガル

 旅の始まりはポルトガルから。イベリア半島の端、ユーラシア大陸の最も西に位置する国家で、北や東では同じくイベリア半島に位置するスペインと接しています。大西洋にはアゾレス諸島マデイラ諸島などの領土もあります。

 本土はノルテ、セントロなど5つの地域に区分されます。そのうち、海とりえが巡ったリスボンやロカ岬は中央付近のリシュボア大都市圏に位置しています。

© OpenStreetMap contributors

リシュボア大都市圏

 リスボンポルトガルの首都。街の南にはイベリア半島最大の河川であるテージョ川が流れ、そのまま大西洋へと注いでいきます。

リスボン空港→リスボン市内

 まずは海がリスボンにあるウンベルト・デルガード空港リスボン空港)に到着するところから。海は1人でリスボンメトロの赤線のホームへ向かおうとしたり観光案内所に向かおうとしたり、2階の到着ロビーで彷徨いまくっています。観光案内所の壁をよく見るとCabo da Roca(ロカ岬)のポスターが貼ってあったり。

 その後はりえの提案でシャトルバスに乗ることになりましたが、これはエアロバスの1系統で20分ごとに運行されています。リスボンの中心の方まで行けるみたいなので便利。

リスボン市内観光

 首都、リスボンの観光は超高速で進んで行きます。4コマ漫画における1コマで3箇所巡ったりします。はやい。

© OpenStreetMap contributors

 まず、海が「か か 海外だー!! 」と叫んでいる大ゴマですが、描かれているのはサンタ・ジュスタのエレベーターの展望デッキから見られるリスボンの景色です(海たちが実際に乗ったのかは不明)。エレベーターといっても現代のビルにあるようなものではなく、20世紀初頭に建設されたリフトに近い建造物です。景色の中央付近に聳立しているのはロシオ広場に立つドン・ペドロ4世の像で、その左奥にはマリア2世国立劇場も描かれています。前述のエアロバスはロシオ広場付近に停車するので、エレベーターに乗ったとするならば海たちはここで降りたのではないでしょうか。

サンタ・ジュスタのエレベーターからの眺望 Lisboa vista do Elevador de Santa Justa por Rodrigo Tetsuo Argenton (02).jpg Rodrigo.Argenton / CC BY-SA

 実際の写真はWikimedia Commonsのものを使わせていただいております。画像にマウスオーバーしたりタップしたりすると引用元の情報が出るようになってる……と思います。

 海が「ぎゃあかわいい 海外だ」と叫んだコマに描かれているのはアルコ・ダ・ルア・アウグスタ。エレベーターから南に数百メートルほどの所にあるコメルシオ広場に構えるアーチです。目の前をトラムが通るのがリスボンっぽくていいですね。

アルコ・ダ・ルア・アウグスタ Arco Triunfal da Rua Augusta, Plaza del Comercio, Lisboa, Portugal, 2012-05-12, DD 02.JPG Diego Delso / CC BY-SA

 このあと怒濤の観光地ラッシュが続きますが、「教会」はサン・ヴィセンテ・デ・フォーラ教会、「だれだろう!?」は発見のモニュメント、「塔」「外国み」はベレンの塔です。ベレンの塔世界遺産リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔」の構成遺産になっているとか。

© OpenStreetMap contributors
サン・ヴィセンテ・デ・フォーラ教会 Lisbon (49190910067).jpg Jeremy Thompson from Los Angeles, California / CC BY
発見のモニュメント Padrão dos Descobrimentos2.jpg Plenumchamber / CC BY
ベレンの塔 Torre de Belém .jpg Rob Oo / CC BY

 このあたりの移動についての描写はないですが、りえが言っていたようにリスボン市内は坂が多く、トラムが便利です。コメルシオ広場から出発してサン・ヴィセンデ・デ・フォーラ教会へと向かったと考えると、広場から北に少し歩いて市電28E系統のR. Conceição停留所にてトラムに乗り、 Cç. S. Vicente停留所で降りて教会に行ったと考えられます。また、発見のモニュメントとベレンの塔は結構近く、市電15E系統に乗ってCentro Cultural Belém停留所前後で降りればどちらも歩いて観光できると思います。

 14ページ左1、2コマ目には2人がリスボンの小径を歩いているシーンがあります。ここはエスコーラス・ジェライス通りの一部、市電のCç. S. Vicente停留所を降りてすぐのところで、サン・ヴィセンテ・デ・フォーラ教会に向かうときの様子を切り取ったのだと思います。

 街灯の下あたりに海とりえが描かれています。こういう裏路地の町並みも絵になるっていいですよね。

 この後、2人はコメルシオ広場に戻ります(海がりえに旅の目的を明かすシーン)。2人が座っている所のすぐ後ろに立つ像はジョゼ1世で、左の後方に見えている門が先ほどのアルコ・ダ・ルア・アウグスタです。

コメルシオ広場 Commerce Square Lisbon.jpg Justraveling.com / CC BY-SA
リスボン⇔ロカ岬(シントラ)


 海の話を聞いたりえが一緒に行くことを提案したのがロカ岬です。リスボンの西のアマドーラの更に西のシントラという都市に位置しています。シントラには宮殿などが数多くあり「シントラの文化的景観」として世界遺産に認定されています。景観はエデンの園に喩えられたこともあるとか。

 そんなシントラにあるロカ岬への行き方ですが、調べるとよく出てくるのが「リスボン近郊鉄道に乗ってシントラ駅まで行き、バスでロカ岬に行く」でした。しかし、海が「降りたわと 思ったとたんに 再度バス」と詠んでいる(少なくとも2回バスに乗っている?)ことから、海たちはシントラまでもバスを利用していると考えられます。よって、海とりえはVimecaシントラ・エクスプレスというバスに乗り、Marquês de Pombal停留所からシントラ駅停留所まで向かった可能性が高いです。このバスは4月から11月の間のみ運転されているらしいです。

 シントラ駅からはScotturbというバス会社の403系統のバスに乗り、途中のCabo da Roca停留所で降りるとロカ岬に到着です。

ロカ岬 Cabo da Roca Image.JPG Jgrygowski / CC BY-SA

 20ページに「帰りのバスまでまだ時間あるよね」というりえのセリフがあります。利用したバスは行きと同じScotturbの403系統だと思いますが、シントラ駅まで戻ったのか終点のカスカイスバスターミナルの方へ行ったのかは不明です。箇条書きで列挙すると、

  • シントラ駅からシントラ・エクスプレスでリスボンへ(行きの真逆ルート)
  • シントラ駅からリスボン近郊鉄道シントラ線でリスボン(ロシオ駅など)へ
  • カスカイスバスターミナルからカスカイス駅まで歩き、リスボン近郊鉄道カスカイス線でリスボン(カイス・ド・ソドレ駅など)へ

といった3パターンに絞られます。尤も、他の観光地を訪れていないのであれば行きと同じ方法で帰ったと考えるのが妥当ではないでしょうか。

リスボン市内→オリエンテ駅

 さて、ロカ岬の次のシーンはオリエンテ駅です。今年の2月頃にTwitterで駅舎が話題になっていました。ロカ岬からここまでの道のりに関しては途中の描写が一切ないので、取り敢えずシントラ・エクスプレスに乗ったマルケス・デ・ポンバル広場あたりからオリエンテ駅を目指すということにしてみます。

 一番簡単なのはバスに乗ること。744系統のバスに乗れば乗り換えなしでオリエンテ駅に行ける……のですが、途中で空港を経由したりするので少し遠回りになります。

 ということで、ここではリスボンメトロを利用する方法も考えておきます。マルケス・デ・ポンバル広場にはバス停だけでなく地下鉄の駅もあり、青線と黄色線が乗り入れています。ここでは黄色線に乗り、サルダーニャ駅で赤線に乗り換え、空港方面に向かうことでオリエンテ駅に行くことができます。日本語にすると路線名がダサいですが、実際はLinha Azul(青線)とかLinha Amarela(黄色線)とかです。

オリエンテ駅→スペイン越境

オリエンテ駅 Lisbon Oriente Train Station (35150743815).jpg Susanne Nilsson from Trelleborg, Sweden / CC BY-SA

 オリエンテ駅からは夜行列車に揺られて次の国へ。リスボンとスペインのマドリードを結ぶ夜行は毎日1本運行されていて、トレンオテルと呼ばれています。海とりえが乗ったのはルシタニアという名前の夜行。現在のイベリア半島の西部の地域を指す、古代ローマ時代の名称です。

 ルシタニア号はサンタ・アポローニャ駅(オリエンテ駅のちょっと南)から走り出し、コインブラなどのポルトガルの都市を経由して、スペインへと越境してマドリードまで駆け抜ける寝台列車です。サンタ・アポローニャ駅からスペインのメディナ・デル・カンポ駅まではシュド・エクスプレスという夜行を併結しているようです。シュド・エクスプレスはルシタニアと別れた後はスペインの北東部へと向かい、さらに国境を越えてフランスのアンダイエまで向かうそうです。途中での分岐というと日本のサンライズエクスプレスみたいなものでしょうか。 

© OpenStreetMap contributors © EuroGeographics. Original product is available for free at www.eurogeographics.org Terms of licence available at  https://eurogeographics.org/maps-for-europe/open-data/topographic-data/

スペイン編

 イベリア半島の大部分を占めるスペイン。作中ではポルトガルとの国境を経てカスティーリャ・イ・レオン州から入り、マドリード、アンダルシア、バルセロナと国土を周遊しています。

f:id:Bnzn:20200525160126j:plain
© EuroGeographics. Original product is available for free at www.eurogeographics.org Terms of licence available at  https://eurogeographics.org/maps-for-europe/open-data/topographic-data/

マドリード州

市内観光

 ルシタニア号は21時34分にオリエンテ駅を発ち、マドリード北部のチャマルティン駅にてその旅路を終えます。到着時刻は8時40分。ポルトガルとの時差は+1時間です。

 列車を降りた2人が最初に向かったのはプエルタ・デル・ソル。スペイン国道の起点です。具体的に述べると、マドリードを起点としたN-IN-VIという6つの国道が存在し、それぞれが6方向に分散してスペインの端の方まで通じていました。それの起点がこのプエルタ・デル・ソルということになっています。今は国道の大部分が高速道路のAutovíaのA-1〜A-6に置き換わっています。

プエルタ・デル・ソル Carlos III's Puerta del Sol-カルロス3世の太陽門 - panoramio.jpg Jun O / CC BY-SA

 チャマルティン駅からここまで徒歩は遠いですね……。交通機関としてはバスの他にマドリード地下鉄1号線やセルカニアス・マドリードマドリードの近郊列車)などが考えられるものの、ここはバスだと思います。理由は推測の域を出ませんが、鉄道に乗った場合のプエルタ・デル・ソルの最寄りとなるソル駅は目的地の真下にあるからです。ソル駅で降りた場合、プエルタ・デル・ソルは「りえさん!見えてきましたよ!」ではなく地上に出た途端に見えてしまうので矛盾します。バスで行く場合、チャマルティン駅のバス停からマドリード交通公社 (EMT) の5系統のバス(Sol/Sevilla行き)に乗ってAlcalá-Sevilla停留所で降り、乗っていたバスの進行方向にしばらく歩くことでソルに辿りつきます。

 海が見つけたバルはどこだか分かりませんでした……。たすけて……。

 続いてソローリャ美術館まで向かいます。先ほど紹介したEMTの5系統のバスでチャマルティン駅方面に引き返し、途中のMuseo Sorolla停留所で降りればすぐそこです。

ソローリャ美術館 Museo Sorolla (Madrid) 07.jpg Luis García / CC BY-SA 3.0 ES

 さて、ここでエマの登場です!海の「ヘンタイだ!!!!」って叫んでる顔がめっちゃ好きです。海の中のヘンタイのイメージとは一体……と思ってたんですが出会い頭に百合か確認するのは多分変態ですね……。

 エマと出会った2人はホットチョコレートチュロスをご馳走になっています。チュロスもスペインが本場だったのか……。このカフェっぽい場所も不明ですが、見切れている文字列から考えるとセラノ通り周辺でしょうか?

 この後にアトーチャ駅へと向かうことになりますが、その前にアルカラ門を訪れています(35ページ右1コマ目)。

アルカラ門 Madrid Puerta de Alcala west side.jpg Håkan Svensson (Xauxa) / CC BY-SA

 セラノ通りの南端、独立広場にあるアルカラ門はラウンドアバウトのような道路のど真ん中に位置しているので、訪れたというよりは歩いていて通りかかったという感じかもしれません。ここからアトーチャ駅までは一本道で、左にレティーロ公園を見ながら歩いていくとたどり着きます。ただ、少し道を逸れるとりえが言及していたプラド美術館があるので、もしかしたら立ち寄ったりもしているかもしれません。時間的に厳しいかな……?

© OpenStreetMap contributors



アトーチャ駅→アンダルシア州

 エマに連れられてマドリードのアトーチャ駅にやってきた海とりえ。スペイン各地とマドリードとを結ぶ、いわばマドリードの玄関口がこの駅の役割です。

アトーチャ駅 Invernadero de Atocha, Madrid - view 2.JPG Daderot / Public domain

 エマが言っていたように、ここからはレンフェ高速鉄道であるAVEに乗ってアンダルシア州へ行ったみたいです。レンフェというのはスペイン国鉄のことです。

 ここで、直前のエマの長台詞を確認してみましょう。

Andalucia地方にあるNerjaっていう美しい街はどう?

地中海が見えるよ!

今MadridだからMalagaまで行って直行のバスに乗ったりFrigilianaまで電車で行ってそこからバスとか行き方いろいろあるね

あ MadridからMalagaまでは飛行機もあるけど電車のほうが旅っぽい?

¿Qué te parece?

 内容を整理すると、エマが提案した内容としては

  • アンダルシア地方のネルハに行けば地中海が見られる
  • ネルハに行くときに経由するマラガへはマドリードから電車か飛行機で行ける
  • マラガから直行のバスに乗ってネルハへ / フリヒリアナまで電車で行ってバスでネルハへ

ということのようです。ですが、実際にはフリヒリアナに鉄道は通っていないので、マラガまで鉄道に乗り、そこからバスを乗り継いでフリヒリアナに向かったと考えるのが妥当です。

 そういうわけで、まずはアトーチャ駅からレンフェのAVEに乗り、マドリード-マラガ高速鉄道線で約500km先のマラガ・マリア・サンブラーノ駅まで向かいます。所要時間は2時間半〜3時間くらい。同じAVEでも停まる駅はまちまちで、アトーチャからマラガまでの途中で何駅か停まる列車もあれば、ノンストップで驀進するものもあるらしいです。エマは2時間半くらいかかると言っていたので、途中駅に停まらない便に乗ったのかもしれません。

アンダルシア州

 スペインの都市といって連想するのはマドリードバルセロナかもしれませんが、スペインそのもののイメージとしては闘牛やフラメンコなどが浮かぶのではないでしょうか。その本場ともいえるのがアンダルシア州です。北海道より少し大きい面積を持ち、スペインの州としては最も多い800万人超が暮らしています。

マラガ→ネルハ⇔フリヒリアナ

 という訳でまずマラガに到着です。作中には1コマも登場していませんが、マラガはアンダルシア州の南部に位置するマラガ県の県都で、州内ではセビーリャに次ぐ第2の都市、スペイン全土でも8番目に人口の多い都市となっています。ピカソの生まれ故郷でもあります。

 この後の行程ですが、この日のうちにフリヒリアナやネルハまで巡ったのかはちょっとわかりません。マラガ辺りで1泊してから向かった可能性も。観光名所は色々ありますし……りえはピカソ美術館に行きたがりそう。

 余談ですが、フリヒリアナの回から海の髪飾りが少し変化します。

 5話の内容に入ります。マラガからフリヒリアナまで直通のバスは存在せず、ネルハを経由してからフリヒリアナへ行くことになります。マラガからネルハはALSAのバスで1時間半ほどで到着。ネルハからフリヒリアナへはGrupo Fajardoのバスで20分ほど。日曜日はバスが運休のため、タクシーで行く必要があります。

 フリヒリアナに着いた3人は散策を開始。40ページ右2コマ目の色とりどりの花が美しい建物はFloristeria Pacoというお店がモデルっぽいです。村の中にあるみたいですが具体的にどこにあるのかわかんないです!!!!!!地図に載ってない!!!!!!!

 その2コマ下ではオープンテラスのレストランに入りますが、モデルはおそらくPunto de Encuentroというバー。観光のメインであるレアル通りに位置しています。

floristeria paco frigiliana - Google 検索

punto de encuentro frigiliana - Google 検索

40ページ左1コマ目は多分ここです Frigiliana, house on the lane "La Chorrera".jpg Dguendel / CC BY

 単行本1巻の表紙もフリヒリアナのはずですが、村の北の方の展望台からは地中海が見渡せるものの、路地から海が見える場所は探しても見つかりませんでした。自分の調査不足なだけかもしれませんが、表紙は路地と展望台からの眺めをミックスしたものと考えています。

 フリヒリアナからネルハへ戻ります。行きと同じくバス、またはタクシーとなります。ヨーロッパのバルコニーへはバス停からPintada通りを歩いていくと辿り着きます。

ヨーロッパのバルコニー Andalucia, Nerja (002).jpg Juandev / CC BY-SA

 この日の宿泊地ですが、作中では日が沈みつつあり、20時は過ぎていると思われます。マラガに戻るバスもあることにはあります(20:55発や21:45発など)が、マラガ到着が早くても22時半ごろになってしまうことを考えると、ネルハで泊まったと考えるのが妥当でしょうか……?

ネルハ→グラナダ

 作中ではネルハからグラナダまで一気に飛びました。間に1日以上挟まっている可能性もありますが、収拾がつかなくなるのでここではネルハ観光の次の日がグラナダ観光ということにします。

 ネルハからグラナダまではALSAのバスが通っており、6時半にネルハのバス停を出る便に乗ると9時半に到着します。6時半の次のバスは10時なのですが、3人はアルハンブラ宮殿を観光してから昼食をとっている(51ページ左1コマ目)ので、10時以降の便に乗ったとはちょっと考えにくいです。

 一応、マラガで宿泊した場合も考えておきましょう。この場合、同じくALSAのバスに乗るという一択になります。ALSAのバスはマラガのバス停を7時ちょうどに出発し、到着は8時45分です。グラナダに直線距離で近いのはネルハですが、所要時間はマラガからの方が短いです。ちなみに、現在はマラガからグラナダまでAVEを乗り継いで行くこともできますが、ここの話がきららMAXに掲載されたのは2019年2月。グラナダまでのAVEの高速線が開通したのは2019年6月なので作中の移動手段とはなりません。

 どちらからバスに乗ってもグラナダバスステーションに到着します。さて、海たちはどこに向かったのでしょうか?

 アルハンブラ宮殿だろ!!!と言われるとまあそうなんですけど(?)、48ページ左8コマ目のエマが遠くからアルハンブラ宮殿を指しているシーンでは、サン・ニコラス展望台から見た宮殿が描かれています。ということで、ここでは先に展望台を訪れたという方向で考えていきます。

 そのサン・ニコラス展望台へはアルハンブラバスに乗って行くことができます。ということで、アルハンブラバスが出発するエバ広場を目指します。

グラナダ到着→サン・ニコラス展望台
© OpenStreetMap contributors

 ヌエバ広場までは市内を走るTransportes Roberの33系統のバスに乗るとほぼ直通です。Juan Pablo II - Estación Autobuses停留所からGran vía 5 - Catedral停留所まで行き、少し歩いて左に曲がるとヌエバ広場に辿り着きます。

 ただ、グラナダ市内を散策した可能性もあります。その場合は、グラナダメトロの1系統に乗ったんじゃないでしょうか。メトロといっても地下鉄ではなくライトレール(いわゆる路面電車)です。グラナダバスステーションのすぐそばにあるEstación Autobuses駅からEstación Ferrocarril駅まで乗るとレンフェのグラナダ駅の近くまで行くことができます。グラナダ駅からヌエバ広場までなら歩ける距離だと思います。

 ヌエバ広場にあるPlaza Nueva停留所からアルハンブラバスのC31系統かC32系統に乗れば展望台の最寄りのバス停、Plaza San Nicolás停留所に到着です。バスは環状運転をしているため、展望台からの帰りは同じくアルハンブラバスのC31系統かC32系統に乗ればヌエバ広場まで辿り着きます。

サン・ニコラス展望台からの眺望 Mirador San Nicolás - panoramio.jpg Рустам Абдрахимов / CC BY
エバ広場→アルハンブラ宮殿

 さて、今度こそアルハンブラ宮殿を目指しましょう!アルハンブラ宮殿に行くとなるとバスか徒歩の2択になるのですが、観光客が多すぎて当日券は朝早くから並ばないとヤバイらしいです。フィクションなのであまり気にしなくていいとは思いますが……。ここでは事前にチケットを予約していた場合(徒歩ルート)をまず考えてみます。あとで当日券を買う場合(バスルート)も考えます。

 チケットを事前に予約している場合、予約完了時に電子チケットが発券されるのでチケット売り場を通らずに行くことができるらしいです。この場合、ヌエバ広場から南東へ伸びるゴメレス坂を歩いて登っていくだけでアルハンブラ宮殿の手前のザクロの門に辿り着くことができます。

 当日券を買いに行く場合ですが、チケット売り場は割と遠いのでアルハンブラバスのC30系統かC32系統に乗ったほうが楽だと思います。この2系統はヌエバ広場からではなく、少し南にあるイザベル・ラ・カトリカ広場から発車します。Plaza Isabel la Católica 4停留所からチケット売り場最寄りのAlhambra - Generalife 2停留所まで、間に8つの停留所があるのに5〜7分くらいで着くらしいです。ほんとか?????

アルハンブラ宮殿観光
© OpenStreetMap contributors

 アルハンブラ宮殿イスラム芸術の粋を結集した幻想的な宮殿であり要塞です。ウマイヤ朝ナスル朝の時代に築き上げられた城塞都市はレコンキスタ終結とともにその役目を終えますが、その後はカルロス5世によって避暑地に選ばれ、新たな宮殿が建造されたりカトリックの教会ができたりと変化はありつつも現代まで多くが残されています。

 さて、アルハンブラ宮殿は結構広いので、一応どのようなルートで回ったのかも確認しておきます。徒歩の場合、ザクロの門を通り抜けてしばらく歩くと裁きの門に辿り着きます。バスで行ってチケットを購入した場合はヘネラリフェ通りを歩いていくと裁きの門へ。どちらにせよ、多分ここから入場したと思います。

 作中に登場するのはすべてナスル宮殿の中です。 この宮殿は入場時間が指定されており、30分の時間制限らしいです。コマレス宮もライオン宮も、出てきませんでしたがメスアール宮もこの時間内に回らなければならないらしいです。ゆっくり見ていたらあっという間に終わりそう……。

アラヤネスの中庭(コマレス宮) Al-hambra 3.jpg Kirantuljaram / CC BY-SA
ライオンの中庭(ライオン宮) Court of the Lions - 2013.07 - panoramio.jpg rheins / CC BY

 6話の扉絵についても触れておきます。海りえエマが階段をバックに地図を広げている、という構図ですが、ここはアルハンブラ宮殿の東に位置するヘネラリフェナスル朝時代に別荘として使われていた別荘で、水路や噴水など豊かな水を湛えた様子は「水の宮殿」とも形容されるそうです。後ろに描かれているのはヘネラリフェの中でも奥のほうにあるJardines Altosという庭園に続く階段です。検索しても階段の画像が出てこないんですが、Google Mapsに投稿されている360°ビューの画像にて存在を確認できました。奥に見えている建物はMirador Románticoです。名前からして展望台施設でしょうか。

 アルハンブラ宮殿の観光を終え、昼食となりますが……どこだろう……。生ハムの原木がぶら下がっていることとアルハンブラ宮殿の周辺であることを考えるとRestaurante La Mimbreあたりは割と似ている気がします。ただ外観が一致しないんですよね……。

 この日のホテルはエマが言っていたようにパラドール・デ・グラナダです。40室しかない!!最安値で220ユーロ!!!高い!!!!!突然の財力!!!!!!!

パラドール・デ・グラナダ Convento de San Francisco de la Alhambra II.jpg Rumomo / CC BY-SA
アルハンブラ宮殿(パラドール)→グラナダ空港→カタルーニャ州

 翌日、3人はグラナダを発ってバルセロナに向かいます。ここも途中の描写はないですが、りえのセリフ(53ページ右1コマ目)によればグラナダからは飛行機でバルセロナに行くとのことなので、バルセロナまでの道筋はほぼ一意に定まります。

 パラドールをチェックアウトした後はヌエバ広場の近くのGranada. Gv Colon Sta Lucia停留所からALSAのバスでAeropuerto Granada停留所まで乗るとフェデリコ・ガルシア・ロルカグラナダ=ハエン空港グラナダ空港)に着きます。この空港からブエリング航空の便でバルセロナ=エル・プラット空港に行くのが妥当です。

カタルーニャ州

バルセロナ=エル・プラット空港サグラダ・ファミリア

 55ページ下1コマ目の背景は空港です。扉絵はグエル公園。 

© OpenStreetMap contributors

 とりあえず、空港から近いサグラダ・ファミリアへと先に向かうことにします。エル・プラット空港にはターミナルが2つあり、そのうちブエリング航空の便は第1ターミナルに到着するっぽいです。

 空港からの行き方ですが、サグラダ・ファミリアに到着する直前の4コマを見てみると、「サグラダ・ファミリアの案内表示」「回転バー式の改札」「地上へとのぼる階段(壁面にうっすらmetroと彫られている)」が描かれていますが、これらは全てバルセロナ地下鉄の駅です。最近は日本で見るものに近いゲート式の改札も登場しているようです。

 ということで、空港のAeroport T1駅からバルセロナ地下鉄L9S線に乗車→Collblanc駅でL5線に乗り換えてSagrada Família駅で下車というのが有力です。第1ターミナルからエアロバスという市内へと向かうバスに乗ることもできますが、その場合はカタルーニャ広場で降りてサグラダ・ファミリアまで直接歩いて行くと思うので……。

  駅の出口の階段を上って地上に出るとサグラダ・ファミリアはすぐそこです。

 森永先生のイラスト、建設機材が動いている状態の様子が描かれていて凄く好きなんですよね!!!!!!機材がほとんど写り込んでいない写真もネットには結構たくさんあります。でも、現状のサグラダ・ファミリアは未完成であり、このイラストはそのことがよくわかるようになっていると思うんですよね。建設中の姿というのはそれぞれの瞬間がそのタイミングでしか見られないからこそ、その一場面を切り取っているのが個人的に好みで……唐突に感想をまくしたてる人になってしまいましたが、もうすぐ完成するからこそ完成前を見ておきたい気持ちが強いです。

サグラダ・ファミリアグエル公園

 サグラダ・ファミリアからグエル公園に行く場合、サグラダ・ファミリアの北西にあるメトロL4線のAlfons X駅の停留所からBus Güellというバスが出ており、これに乗ると直通です。グエル公園世界遺産アントニ・ガウディの作品群」の構成遺産の1つ。扉絵に描かれているトカゲのオブジェは噴水になっています。このオブジェのある広場の他にも、お菓子の家をモチーフにしたといわれる正門、バルセロナを一望できるゴルゴダの丘、ガウディが住んでいた家を転用したガウディの家博物館など公園内に色々あります。

グエル公園 Fale - Barcellona - 71.jpg Fabio Alessandro Locati / CC BY-SA

 この後は夕食シーンです。海はスペインでイカスミパエリアを食べられる日が来るといいですね……

バルセロナ港→イタリア越境

 スペインからイタリアの移動はフェリーです!このフェリーはグリマルディラインという会社が運行しているようです。

  ルートとしては地中海、特にバレアレス海とティレニア海のあたりを進んで行く感じですが、途中でフランス領のコルシカ島とイタリアのサルデーニャ島に挟まれたボニファシオ海峡を通るみたいです。たのしそう。

 このフェリーは月曜〜土曜に1便ずつ運航されています。バルセロナを月曜に出る便は21:30に出港し、ローマに程近い目的地のチヴィタヴェッキアには火曜の18:30に入港します。火曜に出る便は22:30→翌19:30、水〜金は23:00→翌20:30、土曜は23:59→翌20:30というスケジュールです。

 ところでりえの回想シーンで書店にあった雑誌の特集の見出し「かわいすぎる現役女子高生画家 安藤りえ 母に独占インタビュー」ってネガティブな言葉自体は入ってないのにめちゃくちゃ邪悪じゃないですか????? 初見のとき要素の詰め込みの技巧に衝撃を受けた記憶があります(?)何より、インタビュー相手がりえ本人ではなく母なのが怖いですね。りえがこの記事について事前に知っていたのか分かりませんが……。

 話を戻すと、このフェリーには20時間ほど乗ることになります。海はずっと酔ってたんでしょうか……。

イタリア編

 中学校の社会の世界地理の授業でけっこうな確率で「ブーツの形」と形容されていそうなイタリアです。

© OpenStreetMap contributors © EuroGeographics. Original product is available for free at www.eurogeographics.org Terms of licence available at  https://eurogeographics.org/maps-for-europe/open-data/topographic-data/

 作中ではフェリーでラツィオ州に上陸し、そこからイタリア半島の先端、ブーツの爪先のほうに移動し、四国の1.4倍ほどの大きさのシチリア島へと向かっていきます。海とりえと別れた後のマリアはミラノのあるロンバルディア州へ。

ラツィオ州

チヴィタヴェッキア→ローマ

 バルセロナから出港したフェリーの目的地、チヴィタヴェッキアはローマ県の北西に位置する港湾都市。慶長遣欧使節団とかも訪れたらしいです。フェリーが到着するのは夜のはずなので、2人はここで1泊したのではないかと思います。ちなみにスペインとイタリアに時差はありません。

 ここからローマまでは鉄道でしょうか。イタリア編も結構な距離を移動していますが、大体がイタリア国鉄が民営化されてできたトレニタリアの鉄道を利用しているんじゃないかと思います。チヴィタヴェッキア駅は海沿いにあり、ヨーロッパ屈指の規模を誇る鉄道駅、ローマ・テルミニ駅まではトレニタリアのローマ近郊鉄道FL5線で1本で行けます。各駅停車のRegionaleで1時間半、快速種別のRegionale Veloceなら1時間くらいで到着するみたいですね。

ローマ市内観光
© OpenStreetMap contributors

 イタリア編そのものはローマに到着したところから始まります。最初に出てくるのはローマの休日などでも知られるスペイン広場。73ページ下1コマ目に描かれているのはスペイン階段の上に建つトリニタ・デイ・モンティ教会です。テルミニ駅からここまではローマメトロのA線に乗って行くこともできます(スパーニャ駅が最寄り)が、乗らずとも歩いて行ける距離だと思います。

スペイン広場 0 L'église de la Trinità dei Monti à Rome 2.JPG Jean-Pol GRANDMONT / CC BY

 スペイン広場は1コマで見納めです。この後はトレヴィの泉をりえが見つけているので、広場から南下していったみたいです。ちなみに、「ちょっと歩いたらコロッセオもあるよ!」と言っていますがトレヴィの泉からコロッセオまでの距離は1.7km程度。2人ともけっこう歩いてるのかな……?真実の口もトレヴィの泉から同じくらい離れています。

トレヴィの泉 Fontana di Trevi - panoramio - Vlad Lesnov.jpg Vlad Lesnov / CC BY

 そしてマリアと合流。逃走したマリアをりえじゃなくて海が追いかけるのがちょっと意外でした。着物のまま走るの大変そう。

 3人がナポリに行く前に訪れたのがサンタ・マリア・デル・ポポロ教会です。『聖パウロの回心』は教会内のチェラージ礼拝堂にあります。カラヴァッジョいいですよね……。あと、超ハイテンションなりえに怯えるマリアが数コマにわたって海の袖にしがみついているのが好きです。4コマ目のオチとして使われている表現がその次の4コマに引き継がれてていいなって……。

チェラージ礼拝堂 Annibale Carracci e Caravaggio, Cappella Cerasi.jpg Annibale Carracci and Caravaggio / CC BY
ローマ→ナポリ

 ローマを後にした3人が向かう先はナポリカンパニア州の州都です。ローマからは200kmくらい離れています。 行き方としては以下のような候補が。

 空路に関しては50分前後ですが、ローマから空港までに30分かかるので高速鉄道に乗った方が早いし安いです……。

 その高速鉄道ことイタロやフレッチャロッサ、あるいはフレッチャルジェントに乗るとローマからナポリまで1時間10分くらいで行くことができます。ほとんどが途中ノンストップ。この日のスケジュールもだいぶカツカツな感じがするので、これが妥当でしょうか……?高いけど。

 FL7線の各停種別Regionaleに乗ると3時間くらいかかってしまいますが、特急のInterCityに課金すればおよそ2時間で到着します。

 値段としてはバスがRegionaleと並んで安いです。所要時間は2時間半ほど。

カンパニア州

ナポリ観光

 ナポリ編の扉絵はどこかの路地裏っぽい背景になっています。断定はできないものの、以下のストリートビューの場所が近いような気がします。

 ナポリにはスパッカナポリと呼ばれる細い路地があります。英訳ではNaples Splitterとなり、その名の通り上空から見ると旧市街がスパッカナポリで真っ二つに分かれているように見えるそうです。教会や広場なども通り沿いに数多くあり、ナポリの観光においてはメインストリートみたいな存在感を放っているそうな。道自体は歩行者用なんですけどね。

 そのスパッカナポリから一本折れた路地が上のストリートビューの場所です。レストランの立て看板がなかったりする以外は概ね一致しているのではないでしょうか。

© OpenStreetMap contributors

 観光地としてまず訪れたのはヌオーヴォ城。ヌオーヴォというのは(卵城に対して)新しい、という意味のネーミングで、マスキオ・アンジョイーノとも呼ばれています。ブルボン家王宮や19世紀に建てられたウンベルト1世のガッレリアなどでも記念撮影を行っていますが、ヌオーヴォ城ふくめ全て至近距離にあります。ガッレリアというのは東京ディズニーランドにあるワールドバザールみたいなアーケードのことです。そのワールドバザールはミラノにあるガッレリアがモデルだと言われていますが……。

ヌオーヴォ城 Castel Nuovo outside view - Naples - panoramio (16).jpg Tanya Dedyukhina / CC BY
王宮 Palazzo Reale di Napoli.jpg Sordelli / CC BY-SA
ウンベルト1世のガッレリア Napoli, Galleria Umberto I (2).jpg Palickap / CC BY-SA

 作中ではマリアのブログの話題になりますが、このときの3人は海沿いから少し離れたサン・ガエタノ広場にいます。83ページ右3コマ目には、ここの広場の南にあるサン・ロレンツォ・マッジョーレ教会の一部とサン・ガエタノ像が描かれています。

サン・ロレンツォ・マッジョーレ教会 BasilicaSanLorenzoMaggioreNaples.jpg IlSistemone / CC BY-SA

マルゲリータなどを堪能した海たちがナポリで最後に向かったのは卵城。予想以上に海沿い……というか埠頭みたいなところに建っています。

卵城 Castelo do Ovo.jpg Gil / CC BY
ナポリシチリア島

 ナポリを観光した後は鉄道連絡船を利用してシチリア島へ。卵城では日が暮れつつあり、パレルモに到着するのは日中なので夜行列車のInterCity Notteに乗ったと思う……のですが、乗車中の描写としては4人がけのボックスシートがあったり(現在の当該の夜行は寝台車のみらしいです)、フェリーに積まれていく車輛が夜行のものではなかったりと昼間っぽい描写がなされています。

© OpenStreetMap contributors © EuroGeographics. Original product is available for free at www.eurogeographics.org Terms of licence available at  https://eurogeographics.org/maps-for-europe/open-data/topographic-data/

 ローマからやってきた夜行列車はナポリ中央駅を23:56(土日祝は24:22)に発車し、イタリア半島の先端、カラブリア州レッジョ・カラブリア県のヴィッラ・サン・ジョバンニという都市にてフェリーに積み込まれます。ここに到着するのが午前4時。

 上の画像だとフェリーの区間がよくわからないので海峡の部分だけピックアップします。

© OpenStreetMap contributors

 イタリア本土とシチリア島とを隔てるメッシーナ海峡は数kmの幅があります。現在は橋や海底トンネルなどは存在せず、連絡船によってのみ結ばれています。一応ここに吊り橋を架ける計画はあるらしく、それによって連絡船が廃止される可能性も否定できないようです。

 余談ですが、吊り橋として現在世界で最も長いのは明石海峡大橋、鉄道・車道併用橋として最も長いのは瀬戸大橋、最も高いのはフランスのミヨー橋なのですが、メッシーナ海峡大橋が完成すると記録が全て塗り替えられるそうです。尤も、予算不足など諸々の理由で計画は頓挫しているとか……。

シチリア島シチリア自治州)

パレルモ観光
© OpenStreetMap contributors

 メッシーナ中央駅を発車するのは06:55で、ここからはティレニア海に面したシチリア島北部を走っていきます。パレルモ中央駅に着くのは10:08となります。

 パレルモに着いて最初に登場したのがクァットロ・カンティ。地図で見ると普通の十字路ですが、93ページの大ゴマの左右に描かれているような似た外見の建物が四隅にあり、それぞれに春夏秋冬を表現した噴水があるらしいです。そのほか、カルロス5世などのハプスブルグ家の統治時代のシチリア王や聖シチリアーナなどのパレルモ守護聖人も象られています。

クァットロ・カンティ Palermos Quattro Canti (4806516868).jpg askii / CC BY-SA

 大ゴマには奥にサン・ジュゼッペ・ディ・テアティーニ教会があることから、南側を見るアングルになっていることがわかります。クァットロ・カンティの南の角の建物(春担当)自体がこの教会になっているそうです。

 この後に訪れるノルマン王宮は、クァットロ・カンティからヴィットーリオ・エマヌエーレ通りを南西に進み、途中の公園を過ぎたあたりで左折すると見えてきます。パラティーナ礼拝堂はノルマン王宮の中にあります。予想以上に金色でびっくりしました……!

 

ノルマン王宮 Palermo Palazzo dei Normanni (40733447644).jpg Jorge Franganillo from Barcelona, Spain / CC BY
パラティーナ礼拝堂 Cappella Palatina 2014.jpg Liilia Moroz / CC BY-SA

 翌日も市内観光です。海のパジャマについて、「桜田ファミリー」とか「ピザの斜塔」とかはともかく「七輪」に関しては絶対シチリアをもじって販売されているシャツじゃないですよね。海のセンスがめちゃくちゃ炸裂していますね(???)

 パレルモにはたくさんの市場があり、流石にどこに行ったのか断定することはできませんが、100ページ左3コマ目でマッシモ劇場に立ち寄っていることから考えると、その近くのMercato del Capoとかは訪れてそうですね。マッシモ劇場はゴッドファーザーの舞台にもなったらしいです。

マッシモ劇場 Teatro Massimo (Palermo) - Interior-msu-0460.jpg Matthias Süßen / CC BY-SA

 海岸沿いのシーンはフォロ・イタリコでしょうか。海たちがいるところは断定できませんが、奥に見えているのはペレグリーノ山です。(本来の意味の)聖地らしいです。

 あと、市内で見つけたと思われる顔から足が3本生えているものはシチリア島のシンボル、トリナクリアです。シチリア自治州の旗にも描かれています。デザインは実に多種多様で、ここに描かれているトリナクリアはなかなか見つからなかったのですが、もしかするとパレルモにはないかもしれません。……インターネットで探した中で最も似ているものは神奈川県にありました。

 この後はまたマリアの実家のシーン。タオルの一幕などに細かい気配りを欠かさないマリアの性格が現れていて好きです。

 マリア祖母宅→ファルコーネ・ボルセリーノ国際空港

 シチリア最終日。この日の海はめっちゃデフォルメされたトリナクリアのシャツを着てました。Twitterで森永先生があげていらっしゃったマリアのイラストにも同様のシャツが。

 この日はオーストリアへと飛ぶべく、パレルモにある空港へと向かいます。パレルモ市内の北西部、プンタ・ライジにあるファルコーネ・ボルセリーノ国際空港へはパレルモ中央駅からトレニタリアのRegionaleで40〜70分程度(時間幅がすごい)。プンタ・ライジ駅が空港に直結しています。また、バスで行くこともでき、中央駅のすぐそばのVia Tommaso Fazello停留所からPrestia e Comandéのバスに乗れば50分で空港に到着です。電車もバスも30分に1本の頻度で出ています。ちなみに、空港の名前になっているファルコーネとボルセリーノはともにシチリアのマフィアによって命を奪われた裁判官らしいです。

パレルモオーストリア/ミラノ(ロンバルディア州

 ここからオーストリアのウィーン国際空港へはオーストリア航空の便で行くことができますが、季節運航です。少なくとも夏は運航してますが、直行便はそんなに多くはないみたいですね。

 マリアの辿ったルートも見ておきます。マリアが向かったミラノ周辺にはミラノ・マルペンサ国際空港ミラノ・リナーテ空港があり、パレルモからはどちらの空港にも行くことができます。規模が大きいのがマルペンサ、ミラノ市内に近いのがリナーテ……という感じで、普通に考えるとリナーテ経由っぽいのですが、パレルモからはどちらへ行く便もあるので一応両方とも考えておきましょう。

 マルペンサ国際空港ルート

 まず、ミラノ・マルペンサ国際空港に行った場合。この空港はローマのフィウミチーノ空港と並んでイタリア屈指の規模を誇りますが、ミラノ旧市街からはけっこう離れてます。というかミラノ市内でもミラノ県内でもなく北のヴァレーゼ県にあります。

 ドゥオーモなどがあるミラノ市へはマルペンサ・エクスプレスに乗ってマルペンサ空港駅からミラノ中央駅まで50分程度揺られて到着します。また、マルペンサ・シャトルというバスを使うと空港からサンマルティーニ通り停留所(ミラノ中央駅のすぐそば)まで1時間10分、マルペンサ・バス・エクスプレスなら中央駅まで50分です。似たような名前が多すぎでは???

 ミラノ中央駅に着いた後の行程はおそらく全て同じで、ミラノ地下鉄M3線でチェントラーレ駅 駅からドゥオーモ駅まで4駅で着きます。駅を出て地上に出るとすぐそこにドゥオーモが!

ミラノのドゥオーモ Duomo, Milan, May 2018 (02).jpg Ardfern / CC BY-SA

 ミラノのドゥオーモ聖母マリアに献納されているイタリア最大のドゥオーモ(大聖堂)で、一番高い位置には金のマリア像があるそう。隣にはワールドバザールのモデルといわれるヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリアもあります。個人の感想ですが、マリアの前に鎮座するドゥオーモめっっっっっっっっっちゃ好きなんですよね。今でも見るたびに鳥肌が立ちます。マリアが一歩を踏み出すために電話をかけたこの場所が彼女にとってどのような存在なのかとか考えるのが楽しいです。

 リナーテ空港ルート

 リナーテ空港からのルートを説明し忘れていたので今からします。リナーテ空港もミラノ市内にはないですが、一応ミラノ市の隣のペスキエーラ・ボッロメーオ市に位置しています。

 ここから市内への行き方ですが、Azienda Trasporti Milanesi (ATM) の73系統がリナーテ空港発ドゥオーモ行なのでかなり便利そうです。1時間に2〜5本くらいあるし。25時に空港を出発する便まであるし。将来的にはミラノ地下鉄も空港まで延伸してくるそうです。

 

 どちらのルートか断定することはできませんが、着いてからが楽なのはリナーテ経由っぽいですね。

おわりに

 ポルトガルからイタリアまで色々と調べていただけで軽く旅行した気分になりました。自分自身はもともと旅行については国内志向だったんですが、『海リエ』を読んでから一気に興味が海外に向いて将来めちゃくちゃ渡航したい気持ちになっています。気軽に渡航できる世界が戻ってくるといいな……。

 あと、この記事をここまで読んでくださった原作未読のかた(いるか????)に向けてですが、冒頭に書いた通り食べ物の描写や人間模様の描写など、観光の側面以外にも魅力はたくさんあります。個人的にはヒューマンドラマの側面が一番好きかも。食については知識が全くないのでこの記事にぜんぜん盛り込めませんでした。ごめんなさい。『海リエ』の場合はそれら全てが「旅」というものを構成している、といえるかもしれません。楽しみ方は決してひとつではないので、実際に読んでここが好きだ!と言えるところを見つけてほしいです。

 雑誌掲載範囲では既にオーストリアを発って次の国へと足を踏み入れている『旅する海とアトリエ』。今後も彼女たちの旅を見届けていきたいと思います。